ししょちゃんに案内されながら、ちちぷいちゃんは少しずつ「GPU学園」の雰囲気に慣れてきていた。
空に浮かぶ回路のような線。壁をすり抜けるように動く“でんそうデータ”たち。どれもこれも、まだちょっと不思議だけど、怖くはない。
それは、ししょちゃんが隣にいてくれるからだ。
「じゃあ今日は、いろんなクラブを見て回りましょうか」
「クラブって……この世界でも、部活動ってあるんだね」
「ええ。というより、“この世界を支えてるのがクラブ”って言ってもいいくらい」
最初に訪れたのは「整列部(せいれつぶ)」。データの順番をきれいに並べるクラブで、静かな空間の中、みんなが黙々と作業している。
「整列っていうのは、大切な“準備”なの。正しい順番があってこそ、正しい結果が出る。たとえば、靴をそろえてから教室に入るような感じね」
「なるほど……すごく地味だけど、大事なんだね」
「ふふ、地味って言ったら怒られるわよ」
次に訪れたのは、「スレッド同好会」。これは……ちょっと変わった場所だった。
「やあやあ!君がうわさの転校生だね!?いいねえ、この不安定なオーラ!未定義な感じ!」
いきなり抱きつきそうな勢いで話しかけてきたのは、ひらひらとした服に身を包んだ先輩。彼女は「非公式並列処理(ひこうしきへいれつしょり)」を研究しているらしい。
「私たちは、ひとつの仕事を“同時に”やる方法を日々研究しているのさ!でも、あまりにも自由すぎて、たまに処理が爆発するけどね!」
「ば、爆発!?」
「比喩だよ比喩!いや、たまに物理的に光るけどね!」
ししょちゃんがすっと前に出て、ちちぷいちゃんの前に立った。
「ちょっと、あまり刺激しないで。初心者にはまだ早いわ」
「ひゃい……」
そのあとのクラブ見学は、もう少し落ち着いたところばかりだったけれど——
「さっきの人、すごかったね。あそこまで自由な人、初めて見たよ」
「自由すぎて、処理落ちしそうだったわね。でも、面白いでしょ?この学園」
ちちぷいちゃんは、こくんと頷いた。
「うん。正直、最初はこわかった。でも……ししょちゃんがいるから、安心できる」
「……ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しいわ」
夕暮れの空に、回路の光がちらちらと流れていた。ちちぷいちゃんのなかに、新しい感情が静かに生まれ始めていた。